フリークスガレージの中村です。これから、ドローン業界の裏話をさせていただきます。皆さんが聞いたことがないであろう話をします。

ドローンの正式名称はUAV(無人航空機)

ここに「ドローン」と小さく書いてあります。下に「UAV※」と書いてあります。普通は「ドローン」という言葉のほうが大きく書かれますよね。なんで私は「UAV」と言うのか。
※「UAV」=Unmanned Aerial Vehicle(無人航空機)。ドローンの正式名称のこと。

実はドローンという言葉は「兵器」を指します。「兵器」=「ドローン」です。今、ウクライナで飛んでいる爆弾を積んだ飛行機、あれがドローンです。もともと「ドローン」という名称は、飛行機型の無人航空機を指していました。だから兵器とイコールなんです。なので海外の方は、通称で「ドローン」という言い方をしています。

ドローンは、正式には「マルチコプター」と言います。皆さんがよく知るドローンの形の機体は、約20年ほど前に、私たちの開発チームが日本で初めて作りました。大手電子機器メーカーがベースを作ってくれて、それを皆さんの使いやすいように、私たちが今の形に開発しました。そして、「マルチコプター」という名称で世に出しました。それが、いつの頃からかテレビで「ドローン」と報道され、「ドローン」という名称が日本中に広まっちゃいました。

「ドローン」は間違った言葉ではありませんが、正式名称ではないことを理解しておいてください。ただ、もう日本では「ドローン」と言わないと通じません。だから、私たちプロも仕方なく「ドローン」と言っています。今日も、ここではドローンという言い方をします。しかし、私は「UAV」という言葉で育ってきました。これが正式な言い方です。「ドローン」は通称です。正式名ではありません。しかも、「マルチコプター」だけではなく、無人航空機すべてを指している言葉です。それを覚えておいてください。

ドローン物資輸送の現場

これから、ドローンについて衝撃的な話をしていきます。まずは、私たちが埼玉県秩父郡皆野町で行ったドローンの物資輸送の映像をご覧ください。

今回のドローン物資輸送は、離陸箇所から1km離れた山の頂上、高低差170mのところにある集落に物資を届けました。出動依頼を受けて、30分後には飛ばせる方法を取りました。2人のパイロットを用意し、一人は山のふもとに、もう一人は山の頂上の届け先に配置しました。山のふもとのパイロットから頂上のパイロットに途中で操縦を交代するという、2オペレーション方式です。自動航行は一切やりません。自動航行だと、準備に何時間もかかります。なので、私たちのドローン物資輸送は、離陸から着陸まですべてマニュアル操縦です。マニュアル操縦だからこそ、緊急時でも迅速に物資を運ぶことができます。

こちらが頂上側の映像ですね。頂上は、麓からはまったく見えません。もし1人で機体を飛ばすと、機体が視界から消えた瞬間、電波が途切れ、墜落します。通常、同じような環境でドローン物資輸送をやろうとすると、さまざまなインフラ設備が必要になります。例えば、誘導するアンテナを立てたりスターリンク衛星というシステムを使ったり。これには何千万円ものコストがかかります。しかし、そうした設備がないと一般的なパイロットは、ドローン物資輸送ができません。

しかし、この2オペレーション操縦のシステムを使えば、30分後、もっと言えば5分後にすぐドローン物資輸送を実施できます。なぜなら、すべてマニュアル操縦で飛ばすからです。大規模な設備は必要なし。コストもかかりません。今、ドローンスクールは1300~1400校ほどあると言われていますが、そこで2~3日の講習を受けて卒業しても、絶対にドローンは(安全・正確・安定的に)飛ばせません。これは、私がお約束します。マニュアル操縦を習得するには1年くらいの時間がかかるのです。しかし、マニュアル操縦ができれば2オペレーション操縦のシステムを導入できます。そして、低コストでドローン物資輸送ができます。

麓から上がってきた機体が頂上側で見えたら、麓のパイロットから操縦の権利をもらいます。そして、安全に下ろせるところに機体を着陸させます。こうした入り組んだ地形では、自動航行でドローン物資輸送ができるはずありません。そんな複雑なプログラムは組めないからです。よく大手企業がドローン物資輸送の実証実験をしています。スターリンク衛星を使って、RTKという測位方法で、座標もちゃんと決めて……。これらはものすごい準備が必要なんですね。2オペレーション操縦なら、初めての現場でも、どう飛ばすかをその場で決め、すぐ飛ばせます。実際、この日もここで初めて機体を飛ばしました。一切、事前の準備や練習はしていません。

ここから、また空荷の機体を麓に下ろします。1kmの距離を往復5分で進みます。映像を見るとわかりますが、物資輸送中の機体を、さらに別の機体で撮影しています。撮影しているのは、フリークスガレージのインストラクター兼、上級パイロットの嶋貫です。こうした1カット長回しの映像は、なかなか見ることがないと思います。

今、上空で機体が180度くるっと回りました。気づきましたでしょうか。なぜ回すのかというと、そのほうが安全に機体を操縦できるからです。機体のお尻を自分に向けることで、送信機のスティックの動きを間違えません。逆に180度回さず対面のままで操縦すると、スティックの舵を逆に入れてしまいやすくなります。それが事故につながります。私たちは技術をひけらかすわけではありません。プロは、基本に忠実で、安全な飛ばし方をします。上空で機体を180度回してお尻を自分に向けることで、スティック通りに機体が動き、安全に下ろしてこれます。そうしなければ、現場で事故を起こしてしまいます。

ドローンの墜落や事故が年々増加中

ドローンの事故のほとんどは、知識不足です。ドローンの事故は、国土交通省の事故事例を見ると、年間100件ほど載っています。しかし、事故者が国に報告してないものを含めれば、何千件とあるはずです。それらの原因は、パイロットの技術はもちろん、初歩的な知識がないことにあります。こういう現場のこういう環境下でドローンを飛ばしても大丈夫か、それが的確に判断できないと、機体を墜落させてしまいます。

例えば2017年、岐阜県大垣市で、上空のドローンから子どもたちに飴をばら撒くというイベントが行われました。このとき、機体が上空から子どもたちの上に真っ逆さまに墜落し、現場は大惨事。子どもたちは大怪我をしたそうです。私はこの事故のニュースを見て、原因を予想し、検証するため、関係者に真相を調べてもらいました。そうしたら、予想通りの原因によって、事故が引き起こされていました。もしここで私が飛ばしても、墜落させていたでしょう。しかし、私とそのパイロットとの違いは、「そもそも私はそこで飛ばさない」ということです。なぜなら、飛ばす前に墜落することが分かるからです。

ドローンが何種類の電波を使っているか、皆さん知らないですよね。電波の種類を知らない方たちが外で飛ばしています。この電波を使うとどうなるか、そういうことが分かっていない。

以前、電波の知識がないために現場で飛ばせなかった団体さんがいました。私が生活している埼玉県秩父地方では、毎年のように土砂崩れが起こります。毎回、ドローンによる災害調査を頼まれます。現場で要救助者がいないかをチェックします。その後、原状回復するためにドローン測量をします。この間の土砂崩れでは、警察と消防、森林組合、そして私たちのチームが行きました。消防と警察が先にドローンを飛ばし、調査するということで、私たちは待っていました。しかし、1時間ほど経っても全然飛びません。「先にどうぞ」と言われ、私たちは普通に飛ばしました。結局、ドローンで調査できたのは私たちだけでした。なぜだか分かりますか?

現場で飛ばせなかった団体さんたちは、GNSS(GPS)の知識が不足していました。そもそも、土砂崩れが起こるような現場は渓谷なのでGNSSは入りません。GNSSなしでも飛ばせるパイロットでないと、何もできません。さらに、土砂崩れ現場ではものすごい風が吹いています。そういう中で、フリークスガレージのパイロットは普通にドローンで業務を遂行します。

他のドローンスクールさんで学んだ方の多くは、GNSS(GPS)なしで飛ばせないんですね。GNSSが入っていない場所では機体を浮かせられない。実際、先ほどの消防の方に、「すいません。なぜお宅の機体だけ“GNSSが入る”のですか?」と聞かれたくらいです(苦笑)。「こういう現場ではGNSSが入らないことを知っているので、最初からマニュアル操縦で飛ばしています」と私。「なんでそんな操縦ができるんですか!?」「プロですから」。そんなやり取りになってしまうのが残念です。

ドローンの事故増加の原因1
ドローンスクールの数が異常

現場で飛ばせないパイロットが増えているのは、あちこちのドローンスクールが悪いというよりも、そこで教えている内容が悪いだけです。日本にはドローンスクールが1300~1400校ほどあるみたいですが、そのほとんどが自分たちのやっていることが最高だと認識しているわけです。しかしそれは、毎日のように現場で飛ばす私たちプロからすれば低いレベルなのです。1400校もあるということは、毎日、何十人、何百人と卒業しているはずです。しかし、普段あちこちでドローンを使った仕事を見ますか? もちろん私の周りは毎日飛んで、業務を遂行しています。しかし、ほとんどの地域では飛んでいません。それは、現場で飛ばせるパイロットが育っていないからです。

ドローンの事故増加の原因2
民間資格があるからと簡単に飛ばしてしまう

観光地で大量のドローンが墜落している事例があります。秩父には宝登山という観光地があり、春の蝋梅(ろうばい)の季節、梅の季節が終わる頃には、山を3~4時間歩くだけで、一袋分の機体を拾ってこれます。この間は、「DJI Phantom」が落ちていました。ドローンを落とす人の大半は、どこかのドローンスクールの修了証を持っているわけです。しかし、墜落させて帰ってしまいます。

なぜそんなに墜落があるかといえば、山の法面に機体が近づくと、パパパッとGNSSが切れるからです。GNSSが切れて、どう操縦したらいいか分からなくなる。機体は風に乗ってスッーとどこかに行ってしまう。こうして、みんな機体を墜落させます。どうして日本でドローンを使った仕事が普及しないのか。それは、ドローンスクールの資格を持っていても、ドローン免許(国家資格)を持っていても、そのパイロットの知識・技術が圧倒的に不足しているからです。

ドローンの事故増加の原因1
ドローン免許(国家資格)があるからと簡単に飛ばしてしまう

そういうことから、2022年12月に国家資格(ドローン免許)ができましたが、申し訳ないですが取得しても意味はありません。

免許は取らなくても、今まで通り国に飛行許可の申請をしていれば、ドローンは飛ばせます。免許が必要なのは、「レベル4」という場面で飛ばす場合だけです。「レベル4」とは、簡単に言えば「人混みのど真ん中で機体を見ずに飛ばすこと」です。私は、そんなところで絶対に飛ばしません。なぜなら、「機体を落とす自信は100%ですが、落とさない自信は0%」という意識でいつも飛ばしているからです。もちろん、国から緊急の依頼で災害時に飛ばす要請を受ければ、レベル4でもドローンを飛ばします。しかし、通常時はレベル4の仕事は受けません。人殺しになりたくないからです。

実際、ドローンは免許がなくても飛ばせると国が言っています。私はよく、国からドローンについて聞かれることがあり、その都度国会に呼ばれます。国会でもらってきた資料にも、「レベル4以外の飛行は免許はいらない」とハッキリ書いてあります。今だに多くの人が、「ドローンは免許がないと一切飛ばせない」「法律違反になる」と思い込まされています。いろいろなドローンスクールの広告を見ていると、そう思ってしまうのも無理はありません。しかし、それらは嘘です。

ドローンは免許ではなく、知識・技術が重要です。例えば、これから旅客機に乗って海外旅行に行くとします。そのとき、10時間ほど訓練して資格・免許を持っているパイロットと、資格・免許はないが1万時間の経験があるパイロット、どちらが操縦する飛行機に乗りたいでしょうか? 考えてみてください。地球には重力があります。重力がある以上、空を飛ぶものは何か不測の事態が起これば必ず落ちます。初心者が飛ばしているときは重力が半分になればいいですが、誰に対しても平等に重力は働きます。ドローンは人が乗っていないので「無人航空機」と呼ばれますが、あくまで「航空機」です。最悪、墜落するんです。

パイロットに知識・技術がないために、今あちこちでドローンが墜落しています。その原因も、やはり教える側のドローンスクールが現場を分かっていないからです。例えば、あるドローンスクールで学んだ後、フリークスガレージで学び直している生徒さんから聞いた話によると、GNSSがきかなくなるなど不測の事態が起きたら「送信機のスティックから指を離してください!」と教えるそうです。これは、車の運転で言えば「事故りそうになったらハンドルから手を離してください!」と言っているのと同じことです。これが正しい教えだと、彼らは信じて生徒に教えているわけです。だから、1400校もドローンスクールがあるのに、現場で飛ばせるドローンパイロットが出てこない。

ちなみに、フリークスガレージの生徒は、ドローンの一等免許を、遊びで受けに行って、一発試験を100%合格してきます。巷のドローンスクール(登録講習機関)でドローン免許用の講習を受けると、40~100万円くらいするそうです。しかし、合格率は20%以下なのだそうです。なぜ知っているのかと言うと、ドローンスクールを監査する方が当校の生徒にいて、ドローン免許にまつわる内部事情を話してくれるからです。しかし、当校の生徒は一発試験に行くと100%合格する。それは、フリークスガレージが「現場でドローンを飛ばすための知識・技術」を教えているからです。その生きた知識・技術がないと、いくらドローンの資格や免許があっても機体を墜落させてしまいます。

必要なのは「安全な飛行」の知識と技術

今現場で活用されている機体は、ほぼ中国製です。ドローンに関して、中国が技術レベルは世界一です。しかし日本は、情報漏洩の懸念から国の仕事で中国製の機体は使わないという方針です。とはいえ、以前熱海市で起きた土砂崩れの調査は、国土交通省もさすがに中国製の機体を使っていました(苦笑)。私も環境省や独立行政法人水資源機構からドローン点検の依頼を受けますが、職員に話を聞くと「中国製の機体が使えないと現場では仕事にならない」と言います。

中国製の機体よりも性能が劣る日本製の機体を使わなければならないのも、日本でドローンが進展しない理由の一つです。大手のドローン製造メーカーは、私たちのようなブレーンがメーカーと一緒に作っています。私もFUTABA社やOS社などと一緒に機体を開発しています。だから、どこそこのメーカーの機体はこんな性能だ、ということを熟知しています。そのため、「この日本製の機体はそのうち墜落するよ」と言うと、数日後には本当に墜落して、ニュースになります(苦笑)。これは開発技術者に、「現場でドローンを飛ばす経験が圧倒的に不足しているから」だと考えられます。もっともっと私たちは、現場で得られたデータをもとに機体を開発していかなければなりません。

ドローンでの物資吊り下げの裏側

続いて、「大型ドローンによる物資の吊り下げ」を見ていきましょう。この機体もフリークスガレージで作っているオリジナルの機体です。下にフックが付いていて、10kgの三脚をロープで吊り下げています。機体の下にはカメラがついているので、下ろしたいところに正確に物資を下ろせます。わざわざ着陸して物資を下ろす必要がありません。上空でホバリングしながら、ロープごと物資を下ろせます。そのほうが効率がいいのです。ドローンが一番電力を食うのは、着陸時です。着陸するときにかなりの電力を消耗します。なので着陸の回数が少ないほど、飛行時間を長く保てます。

ドローンから物資を、ピンポイントで下ろします。予め物資を投下する目印を決めて、それをカメラが写し、手元の送信機で見ながら、そこにドンピシャリで物資を落下させる。今、積んでいる物資が下りました。フックを外しました。機体がロープごと、上空に移動します。この方法だと、下にわざわざ平らな場所を用意しなくても、着陸場所がなくても、問題なく物資投下ができます。

着陸時も、コツがあります。そのまま機体を下ろすと、ロープが絡んでしまいます。しばらくロープを引きずるように機体を進ませます。そうしてロープがまっすぐの状態で、機体を着陸させる。これらすべて私たちはマニュアル操縦でやります。これが自動航行による物資輸送だと、複雑な地形には無力だしかゆいところに手が届きません。実際の現場では役に立ちません。だから、私たちはすべてマニュアル操縦で業務を行います。

UUV(水中ドローン)のデモ映像

次は、UUV(Unmanned Underwater Vehicle/無人水中機)のちょっとした映像です。海中でも撮影や点検ができます。アームをつければ、物を掴むこともできます。UUAVが本領を発揮した事例があります。痛ましい事故ですが、以前観光船の「KAZU I」が沈んだときに、自衛隊がUUVで調査し、船艇を発見できました。人間が潜れたのはその1ヶ月後でした。

陸・海・空の遠隔操縦プロジェクト「AUG」

陸・海・空、すべての遠隔操縦機を使って、中小企業や自治体の問題解決をするプロジェクトが、「AUG」です。「AUG」は「アグ」「アーグ」と呼び、UAVとUUV、UGVの真ん中の文字を並べています。フリークスガレージのオリジナルのプロジェクトです。
•UAV:Unmanned Aerial Vehicle(無人航空機/ドローン)
•UUV:Unmanned Underwater Vehicle(無人水中機)
•UGV:Unmanned Ground Vehicle(無人地上車両)

フリークスガレージは、ドローンを万能だと思っていません。例えば物資輸送にしても、地上で運べるのならそれに越したことはありません。そのほうが墜落せず、安全だからです。多くの企業が、買い物難民の方たちに対して“空から”やろうとしています。しかし、買い物難民というのは、別に道が使えない状態ではありません。道は繋がっているので、地上から物資を届ければいいのです。地上から運ぶためのロボットを使えばいいのです。わざわざドローンを飛ばす必要はありません。動画サイトで「四足歩行ロボット」を検索してみてください。犬みたいなロボットが、いろいろなものを運びます。階段も昇ります。「◯◯さんの家に行く」とプログラムすれば、持っていってくれます。

地上でできることを地上でやれば、安全です。墜落する心配がない。なんでもかんでも空でやればいいわけじゃない。適材適所。使うべきところを見極めた、遠隔操縦をする。それには、陸・海・空の全部ができないとダメです。日本は、何でも空からやろうとします。しかし、空ほど危ないところはありません。陸・海・空、すべての遠隔操縦を利用できれば、よりよい環境や社会、新しい仕事を作れます。

例えば、ここにあるUAV(ドローン)には、スピーカーが付いています。50m先の人にまで声が届きます。赤外線カメラも積んでいます。災害時などで、空から救助者がいないか調査できます。発見したら、「手を上げてください」などと呼びかけます。救助者の声はこちらに聞こえないので、手をふるなどのジェスチャーをしてもらうわけです。いろいろと使えます。

企業や自治体から「こんな問題があるので、ドローンは使えないか?」と相談されるので、いろいろアドバイスをしています。最近では、スズメバチの撃退法を考えています。橋の下に巣ができます。高いところなので、取り除くのが難しい。その場合は、機体に殺虫剤入りのタンクと噴射するノズルを付けます。巣にズブッとノズルを刺し、殺虫剤を入れる。これは、あるメーカーが開発しています。ただ、こうした作業はマニュアル操縦になるので、技術のあるパイロットがいないと難しいです。

ここにあるUGV(無人地上車両)は、カメラやアームがついています。6輪で、たいがいの岩場や悪路も走れます。例えば洞窟などでも、人が入らずに調査ができます。住宅の床下に動物がいて追い出したい場合、人が入ると襲われます。そのようなときに、UGVで発見ができます。

質疑応答

「ドローンが視界から消えたら操縦は無理とありました。買い物難民に物資を届けることがテレビ(のニュース)でもやっていましたが、そういうことは(今後も)不可能なんですか?」

いえ、不可能ではありません。そういうドローンの自動航行のやり方は、スターリンク衛星だとか機体を誘導するアンテナを電柱につけるだとかすればできます。しかし、コストや導入の時間などから、中小企業や自治体が取り入れるのは現実的ではありません。今私たちが考えているのは、物資輸送中の機体と、もう一台電波を中継する機体を飛ばすということです。できるかどうか、ドコモさんに聞いています。それができれば、一人のパイロットだけで、山の向こう側まで物資を運ぶことも可能かもしれません。

「2オペレーション操縦の際、パイロットの操縦の交代は自動的に行われるのですか?」

いえ、手動で切り替えます。機体が山などに隠れて見えなくなると電波が途切れてしまいます。なので、まずは離陸地点のパイロットが、目視できる範囲まで上空に機体を上げます。上空の機体を山の向こう側のパイロットが確認できたら、そのときに操縦の権利を自分に切り替えます。

2オペレーション操縦にもツッコミどころはあります。一人のパイロットが着陸地点に行けない場合はできません。しかし、何とか山の頂上にパイロットが行くことができれば、頂上で操縦を交代し、機体を山の向こう側に飛ばして物資を届けられます。離陸と着陸の中間地点にさえ立てれば、後はもう機体を何百往復でも飛行できます。事前の大掛かりな準備もいりません。ただ、この2オペレーション操縦は、3~4kmの距離が限界です。あまりの長距離輸送には向いていません。

「何人ものパイロットを等間隔に立たせて、リレー形式にして、長距離輸送をすることはできないのですか?」

それができるかどうか、今メーカーと打ち合わせています。例えば、2人ではなく4人のペアでできるシステムができないかどうか。日本では、FUTABA社というメーカーがさまざまな装置を作っています。例えば電波に関して、2.4Ghzは汎用なので混線しやすく、仕事で使うのは危険です。そこでFUTABA社に、920Mhzの特殊なものを作ってもらっています。最初のほうで、岐阜県大垣市で子どもたちの上に大型ドローンが落ちたというニュースの話をしましたが、墜落の原因は電波です。イベント会場は、2.4GhzのWi-Fi電波が飛び交っています。そのようなところで2.4Ghzの電波を使ってドローンを飛ばしたから、結果的に墜落してしまったわけです。知識がある人なら、そんな環境で飛ばしたら落ちると分かります。

「2.4Ghzの電波が飛び交っているかどうかは、どうすれば分かりますか?」

私たちプロのドローンパイロットは、電波状況が分かる装置を持っています。装置を使うとグリーン、イエロー、レッドのシグナルが出ます。レッドなら、絶対にドローンを飛ばしません。

「空中のドローンと水中のUUV(水中ドローン)は、どちらの操縦が難しいですか?」

操縦だけなら、空中のドローンが難しいです。ただUUV(水中ドローン)は、海だと海流があったりするので、環境によって難しさも変わります。波が来るたび、機体も動いちゃいますから。湖とか穏やかな水中なら比較的易しいです。とはいえ、UUVは何か不測の事態があっても、水中で機体がただよっているだけ。UAV(ドローン)は墜落してきます。操縦だけなら空中が難しいと言えます。

「UUV(水中ドローン)の操作はモニターを見ながらするのですか?」

そうですね。水中はモニターを見ながら操縦します。機体を目視できないので。水中では電波が届かないため、UUV(水中ドローン)はケーブルで繋がっています。ケーブルの長さだけ、機体は潜れます。今ここにある機体は、水深100mまで潜れます。あちらの機体は、推奨はしませんが性能的には水深200mまで潜れます。

南伊豆町岡部克仁」町長のドローン操縦体験

ここに、ドローン操縦体験ができるよう、2種類の機体を用意しています。一つは、初心者でも簡単に飛ばせる機体。もう一つは、初心者には難しい機体です。2つの機体を飛ばし比べてもらいましょう。

最初に飛ばしてもらった機体が、「DJI Mini2」と言います。いろいろな装置が付いているので、いきなり誰でも飛ばせます。3日ほど練習すれば飛ばせる気になります。しかし、実際の現場では、不測の事態が頻繁に起こります。そのとき、各種の装置が働かなくなります。対処できる技術がないと、墜落させてしまいます。

次に飛ばしてもらうこの機体は、マイクロドローンです。ホバリングもすべてマニュアル操縦です。操縦技術があれば、ピタッと止まります。狭いところにも入っていけます。机の足の間も入れます。マイクロドローンで、いろいろな調査・点検ができます。どなたか飛ばしてみますか?

先ほど、簡単に飛ばしていた「DJI Mini2」も、GNSSが切れると操縦が難しくなります。実際の空でもこうなります。マイクロドローンみたいに、安全装置のほとんどついていない機体を自由自在に操縦できないといけません。しかし、できない人がほとんどです。だから、山で一袋もドローンを拾ってこれるわけです。このマイクロドローンが難しいのではありません。「DJI Mini2」のように各種のセンサーの付いた機体が簡単過ぎるのです。しかし、簡単に飛ばせるのは条件が良い場合だけです。仕事の現場で良い条件のときはほとんどありません。だから、墜落させたり離陸すらさせられないパイロットがいるのです。

もっと災害現場でドローンが活用されなければならない

ドローンを安全に飛ばせるパイロットが増えれば、もっともっといろいろなことに使えます。例えば、フリークスガレージのドローンスクールには、有名なレストラン勤務の生徒がいます。外食産業なので先々が心配。手に職を付けようと、うちに来ました。「レストランでドローンを使えば?」と私。「えっ?」と生徒。そのレストランは、いろいろなところに店舗があり、海辺にもあります。平磯や無人島にテーブルを置いて、給仕を立たせ、浜からドローンで料理を運び、もう一台のドローンでその様子や、お客様の記念撮影をすれば、お金持ちはいくらでもお金を出します。生徒にそう話したら、「なるほど! すぐ上司に相談します」と言っていました。

ドローンはただ飛ぶだけの道具です。その道具をどう使いこなすかは、私たち次第。兵器に使おうと思えば使えるし、人助けに使おうと思えば使えます。この南伊豆町で人助けに使えれば、すごくいいですね。

今後は、より災害現場で活躍できるドローンパイロットが増えればいいと思っています。しかし、よくフリークスガレージにも「災害現場のドローン操縦で活躍したい」という方がいらっしゃいますが、簡単ではありません。技術だけではなく、緊張感や使命感、精神的な強さも必要です。実際、土砂崩れの現場では、ドローンを飛ばしている横で、何十メートルもの大きさの岩が上からごろごろと転がってきます。自分のドローン操縦が失敗すれば、人命にも関わります。私は、災害現場でドローンを飛ばすと、緊張感から頭の中がずたぼろになり、3日間は動けなくなります。とはいえ、主に私がドローンを飛ばす災害現場は、土砂崩れの現場です。校長は、2011年3月11日の東日本大震災で、死体の山の中で作業をしているわけですよ。そういう状況で私ができるかと言えば、自信がありません。

何かあれば、いつでもご相談ください。私の知っている限りでお応えします。これからも南伊豆町でも頑張りますので、よろしくお願いします。ありがとうございました。