今回のUAV通信、テーマは「ドローン空撮 売れるテクニック」です。クライアントの許可のもと、実際のドローン空撮現場を映像で見ながら、解説していきます。今回のクライアントは、国内だけでなくアメリカやヨーロッパ、アジアに拠点を持つ、建築工具メーカー大手の株式会社TJMデザイン。「TAJIMA」(タジマ)のブランド名の方が分かりやすいかもしれません。この「TAJIMA」さんから、測量機器のCMに使うためのドローン撮影を依頼されました。

現場移動前

中村:今日は、上空(高く)にドローンを上げる撮影が何箇所かあります。そのとき、現場で機体をずっと確認してもらう人と、私の後ろについて、周りで変わったことがないか教えてくれる人と、分かれてやります。とりあえず行きましょう。私もまだ行ったことがない現場です。

クライアントと対面

中村:今日は無風に近い。好条件です。日当たりがいいと(ドローンの)影が出てしまう。今日は影が気にならない。予報では12時頃から雪の模様。それまでに終わらせないといけません。

――今日は一発本番ですか?
一発本番しかない(笑)。クライアントに詳細を聞いて、それをどう撮るか。

クライアントとの打ち合わせ

クライアント:「4シーン撮りたいです。まず、測量機器の商品で測っているところを、上空からドローンで通過して。商品を軸に通過して欲しいです。次に、商品は衛星を使っていますので、衛星を使っているシーンをドローンで表現したい。そして、商品から離れていくものと向かっていく映像も撮りたいです。最後に、対象の周りを回るカットも。

中村:4シーンそれぞれで、いくつかのパターンで撮ります。「タイムラプス」は入れておいた方がいいですか?「タイムラプス」でトントントントンと写真を撮れば、動画でつなぐときにパパパパッと動く演出が作れるんですよ。

クライアント:「おお! ドローンの知識が多くないので、逆に提案していただけると助かります」

中村:「あと、引き画のスピードも何種類か撮るといいです。(被写体の周りを回りながら撮る)サークルも、空に上がりながらとか、いろいろできます。

フライト準備

機体は、すぐに準備できます。車で中で温めておかないと飛ばなくなっちゃうので。機体は『DJI MAVIC3 CINE』ですね。

嶋貫:今、ローター(機体のプロペラ)を真っ直ぐにしたところがいいですね。

中村:(真っ直ぐにしなくても)普通に飛ぶんですけどね。なるべく機体に負荷をかけないよう。

クライアントとの打ち合わせ2

中村:まず、商品を持った人物の上を通過する撮影からやります。機体の高さはどれくらいがいいですか。人物がどれくらいの大きさになったらいいですかね?

クライアント:高すぎると、何も分からなくなりますよね。あの、ちょっと(背景の)色が変わっているところぐらい(を目安に)。

中村:あのぐらいの高さですね。真上がいいですか? 通り過ぎていいですか? それともそのまま上を通り過ぎちゃうのか。例えば、ずっと人物を映しながら。

クライアント:それがいいです。半円みたいに動くってことですよね。

中村:はい、真っ直ぐいきながら。

クライアント:それで大丈夫です。

ドローンのフライト

「ノーズイン・サークル」を使った各種撮影

中村:初めての現場なのでね。自分もイメージをこの場で作っているんです。

嶋貫:今、後ろにいたのはクライアントさんですか?

中村:そうですね。これからいろいろな飛ばし方をしていきます。
これは「ノーズイン・サークル」。飛行途中で「ノーズイン・サークル」を入れて、(被写体から)去っていく。そういうシーンですよね。いろいろなパターンを飛ばして、撮っていきます。けっこう離れた場所から撮っています。この現場で、練習していないですからね(笑)

嶋貫:このときは機体を見ているんですか? それとも画面を見ている?

中村:両方ですね。やはり両方見てます。このときは、クライアントから「もう少し下のほうで撮りたい」「重機も入れたい」など、要望をその場その場でもらいました。

さっき重要なことを言っていましたが、快晴だと影ができちゃうんですよね。機体の影が。だから思うように撮れない。(この日のような)明るい曇だとすごくいいですね。この日は明るい曇でした。

ドローンが正面から行って、下にいる人物と商品を捉えながら、横に向けて、そして去っていく。後ろに引いていく。そういうシーンですね。これをいろいろなテイク、いろいろな角度や高さで撮りました。その中で、制作会社が使える映像を使います。

嶋貫:テイク数はけっこうあったんですか?

中村:けっこうありましたよ。全体を通して、40テイクぐらいかな。
いろいろなシーンを撮りました。各シーンを5テイク以上ずつとかね。

ドローンの撮影の仕事に携わった方は分かると思いますが、すごい時間撮っても、実際使う映像はかなり短いです。撮った映像を全部使うわけじゃない。それで、初めてドローン撮影の仕事をする人は、けっこうがっかりします。1時間も映像を撮ったのに、実際使うのはここで10秒、ここで15秒みたいな。でもそれがCMなのでね。一番いい画を使います。

今「ノーズイン・サークル」で撮っています。「ノーズイン・サークル」も、いろいろな高さでやっています。両方から、真横から。かなり低く飛ばしたり。いろいろなパターンをやっています。

設定もパパパとできなくちゃいけない。これもね、日頃からやっておかないと、現場ではできませんからね。

被写体に対して、垂直上昇・下降での撮影

これはドローンが垂直に上がっていきます。

嶋貫:だいぶ上がっているように見えましたけど、どれくらい挙げたのですか

中村:これは50~60メートルくらい。でも150メートルまで行ったかな、最後は。

あと、逆パターンも作っているんですよ。人の真上にドローンを急降下させます。これはやっぱりすごい。さすがに何回かはビビって横に避けちゃいましたね。ピタっと止まらなくちゃいけない。失敗すると、ドーンとね、人にぶつけちゃいますから。

実際、この動きはプログラム(自動操縦)ではできません。サークルしながら上昇していく「ヘリックス」というプログラムがありますが、そんなプログラムは、この現場では通用しない。そういう動きをマニュアル操縦(手動)でやっています。

嶋貫:今回の現場で、「インテリジェントフライト」(プログラム、自動操縦)が使えた場面はありますか?

中村:ほとんどないです。ただ、カメラがポイントを固定するような機能は使っています。なので、ドローンの飛行に対してのインテリジェントフライトは、ほぼ使っていない。結局、自動操縦は標的を外すんですよね。インテリジェントフライトは使っていないです。

(ドローン撮影は)地味な作業ですよね。テイクを重ねています。

嶋貫:このときは撮影内容のほかに、何か気にしていた部分はありましたか?

中村:スタッフが多かったので、写り込まない角度で撮影することですね。あとは商品を持っている方にぶつけないように。「それだったら、ドローンの障害物感知(センサー)を入れればぶつからない」と言う人もいます。しかし、障害物感知は入れられないんですよ。入れると、変なところで急に機体が止まっちゃったりする。私と同じようなドローン撮影をやったことがあれば分かります。そんなの入れたら撮影ができない。なので入れていないんです。

「タイムラプス」での撮影

これ今、スチール撮りしているのかな。「タイムラプス」のシーン。これは2秒に1回切れるシャッターで撮っています。

嶋貫:けっこう遠くまで行きますね。

中村:そうですね。短すぎるとやり直しが利かないですけど、長めに撮っておく分にはね。

嶋貫:けっこう入り組んだ地形に見えます。

中村:採石場で、残土を処理する現場です。こういう現場は、都度地形を観測しなくてはいけない。そこで『TAJIMA』さんの機器が使われます。

このシーンは、盛土の下からグワッと、地面から湧き上がるように上がってきて、この地面のかたちをなぞりながら、商品を持った人物を通過する。そういうシーンを撮りました。出来上がったCMを見たら、最後に使われていましたね。

嶋貫:ということは、自分より低い位置のドローンを操縦している

中村:そういうことですね。

嶋貫:通常ドローンは、自分より上を飛ぶイメージを持たれていますが。

中村:私は低いところで操縦して撮るのが好きですね。かなり低い位置を「ノーズイン・サークル」で撮っています。

嶋貫:これもマニュアル操縦ですか?

中村:これも基本マニュアル操縦ですね。ポイントだけは押さえておいて。時計回り、その逆。高い、低い、近い、遠い、近づく、離れる。そういう撮り方をしています。

これは引きのシーンを撮っています。実際、現場でカメラを持っているイメージなんですよ。ドローンを飛ばしていますけど、その飛んでいる機体をカメラに見立てて、持って撮影しているような。自由自在にドローンを操れないとね、必要なシーンは撮れない。

嶋貫:確かに、最近撮影の練習を始めた(フリークスガレージの)中級パイロットの方が、「操縦と撮影を組み合わせるのがすごく難しい」と言ってましたね。

ドローン空撮 撮影終了

(トラックの荷台にドローンを着陸させる)
嶋貫:これ、ドローンを知らない人からすると普通に着陸させているように見えますが、実際難しいですよね。

中村:難しいですね。今回の撮影は、バッテリー1本分。これで一通り撮影が終わりました。これから撮った映像をパソコンに移していきます。

嶋貫:現場ですぐ撮影データをパソコンに移すんですね

中村:そうですね。現場でチェックしないと、取り直しがきかない。「このシーンもう1回撮って」と言われても、現場にいないとできませんのでね。

終了後のインタビュー

――今回はどんな空撮依頼でしたか?

今回は、ドローンによる測量機器のCM撮影なので、動かないものに対して、どう機体で商品の魅力を表現するか。ドローンの動きをいろいろ工夫してみました。撮影全体を振り返ると、思ったより天気が良く温度も低くなく。機体が無事に飛んでくれました。バッテリーの温度が下がると飛ばせなくなります。そうなると、バッテリーを温めながら作業しなければなりません。

機体は『DJI MAVIC3 CINE を使いました。この機体は、使いこなすのがかなり難しいです。熟知しないと、現場ですぐ使えません。日頃から触っていないとね。

映像データ納品後の完成映像

『TAJIMAツール』商品紹介ビデオはこちら
https://jpn.tajimatool.co.jp/category/147

今回のドローン空撮の解説

中村:ドローンによる測量機器のCM撮影をやりました。外で撮影ですから、それなりのスタッフが必要に。今回は、4名の生徒さんに手伝ってもらいました。現場では、まず飛ばす範囲を決めて、撮影を進めていきました。

クライアントとの打ち合わせでは、「相手が何を表現したいか」「(商品の)どこを特徴的に捉えたいか」などを聞きました。(撮影する商品は)GNSSの電波を捉える機器ですから、クライアントとの話の中で、宇宙の衛星からの電波のつながりを映像で表現できればなと。もっと前から打ち合わせをしていれば細かくはできましたが、クライアントのスタッフと会うのも、この日が初めてです。とにかく相手が映像で表現したいことを、機体の動きで表現するように努めました。

私たちは、その場に応じたドローンの設定をして飛ばします。例えば「ノーマルモード」「スポーツモード」「シネモード」など、いろいろあります。この撮影で使ったのは、対象物を捉え、そこを中心に撮れるような設定です。

この撮影で大変というか、ちょっと怖かったこともあります。宇宙から商品までの電波のつながりを映像で表現したい、ということで、最初は商品を下にして、機体を上にウワーッと飛行させました。今度は、上空から地上の商品に向かってGNSS電波が届いているというシーンを作るため、ドローンを空から急降下させました。ただ、その急降下の先には、人がいるわけです。もしブレーキが効かないとやばい。さすがに3テイクぐらいはビビって標的を外しちゃうんですよね。

嶋貫:もう反射的にそうやっちゃうんですね。

中村:だけど、いくらかタイミングも分かってきたので、「よし、これは人の真上に止めるぞ」と、それで5テイクぐらいかな、ピタッと止まって。「おお、撮れた」みたいなね。これが「インテリジェントフライト」でやっちゃうと、あんなに迫力がある画が撮れないんですよ。

嶋貫:客観的に映像を見ていると、普段からドローンを飛ばしている人間からするとドキドキしてしまう瞬間でした。

中村:現場の生徒さんは、「かなりやばんじゃない…」と思ってたみたい(笑)

嶋貫:やっぱりそうだったんですね(笑)

中村:あれはちょっとね。やっぱり、ぶつけちゃいけないのでね。

嶋貫:機体もそれなりに大きい。

中村:いくら相手がヘルメットを被っているといっても、事故になっちゃいますからね。

ドローン撮影のコツ

ドローン撮影のコツ。これ(話すのが)難しいんですけど。今回の現場や撮影の主旨では、被写体のそばにパイロットが行って撮ることができません。自分が映ってしまうからです。被写体の近くに行けないので離れて操縦するのですが、離れていても、実際に自分がカメラを握って、「そこで撮っている」意識です。そう撮っていくんですよね。

だから、なんとなくドローンで撮影するのではありません。自分の意志が機体に伝わって、手足のように動かせるからこそ、その撮り方が叶う。実現する。本当にその場で、機体を持って撮影しているような、そういう撮り方を心がけています。それがコツというかね。いい映像にする一つの方法です。そこまでドローンを操るのは難しいんですけど。そこまでやらないと、表現したい良い映像は撮れません。

助手として来た生徒さんたちは、これすごい得るものがあったはずです。このときの募集は、かなりの生徒から「行きたい!」と応募がありました。選考は、普段から練習に来てくれているか。3ヶ月練習していないのに応募されても、選ぶのは難しい。あと、授業を見ていて、その人の飛ばし方や考え方、知識なども踏まえて、そこから選ばせてもらいました。それらは、会話の中で分かりますから。そういう会話で信頼関係を築いていきますのでね。

ただ、法人会員さんは優先しています。このときは2名いました。あとの2名は、経験や知識量などを普段から見て、選びました。それで今回は4人の生徒さんが決定。これはかなりの経験が積めたはずです。

嶋貫:第三者がいる現場ですもんね。

中村:そうですね。第三者もいるし、トラックやダンプ、ショベルカーも動いている。そういう中でのドローン撮影なので、かなり厳しい。勝手なことはできない。生徒には、いい経験になったのかなと思います。ちなみに直近でも、生徒を連れていける現場が2つあり、今募集しています。

エンディング

中村:今回のUAV通信、いかがでしたでしょうか。

嶋貫:実際のドローン空撮の現場を見ることで、生徒さん自身が、普段からやっている練習が最終的にどういう仕事(の進め方や活かし方)につながるのか、ヒントになったかと思います。

中村:そうですね、漠然と練習していてもね。練習を重ねた結果、今回のようなドローンの撮影ができるということですよね。

また機会があれば、ビデオを見ながら解説していきます。今回はここまで。それではまた、皆さんお会いしましょう。